SiFiveの4億ドル調達は、RISC-Vを「AIデータセンターのCPU」へ押し上げるのか
2026年4月9日、SiFiveはオーバーサブスクライブされたSeries Gで4億ドルを調達し、企業評価額は36.5億ドルに達した。ラウンドはAtreides Managementが主導し、NVIDIA、Apollo Global Management、Point72 Turion、T. Rowe Price、Prosperity7 Ventures、Sutter Hill Venturesが参加した。会社説明によれば、資金はデータセンター向けRISC-V CPU/AI IPの高度化、CUDA・Red Hat・Ubuntuを含むソフトウェア整備、さらにNVIDIA NVLink Fusionを軸とする顧客導入支援に振り向けられる。SiFiveは2025年に過去最高成長を達成し、500超の設計採用と累計100億超コア出荷を掲げている。 (sifive.com)
このニュースの本質は、単なる大型調達ではない。SiFiveは完成品CPUのメーカーというより、顧客が独自SoCを設計するためのプロセッサIPを供給する会社だ。RISC-V自体はRISC-V Internationalが維持するオープンかつロイヤルティフリーのISAだが、SiFiveが売るのはその上に載る商用IPと周辺サブシステムである。つまり今回の資金調達は、「RISC-Vの理念」への投資というより、ハイパースケーラーやAIインフラ企業が自前のCPUを差別化するための現実的な設計基盤への投資と見るべきだろう。 (sifive.com)
なぜ今、AIデータセンターでCPUが再び注目されるのか。SiFiveは今回の発表で、AIが“agentic”な方向へ進むほど、CPUはGPUの脇役ではなく、複雑なオーケストレーション、データ移動、システム制御を担う中核になると説明している。実際、2026年1月に発表されたSiFiveとNVIDIAの提携では、SiFiveの高性能RISC-V計算基盤にNVLink Fusionを統合し、NVIDIA GPUや各種アクセラレータとコヒーレントかつ高帯域で直結する方針が示された。NVIDIA側もNVLink Fusionを、カスタムCPU/XPUをNVLinkとOCP MGXラック設計に組み込むためのラックスケールAI基盤として位置づけており、FujitsuやQualcommのCPU接続も公表している。 (sifive.com)
この文脈で「CUDA対応」は象徴的だ。NVIDIAは2025年7月、RISC-VをCUDAベースシステムのメインCPUにするため、CUDAプラットフォームのRISC-V対応に取り組んでいると明らかにした。ただしこれはまだ進行中で、リリース時期は未公表である。RISC-V Internationalの解説によれば、ここでCPUが担うのはLinux、ドライバ、GPUカーネルのスケジューリングであり、GPUが演算を担当し、DPUがネットワークを受け持つ。要するに狙いは「RISC-VでGPUを置き換える」ことではなく、「RISC-VをAIラックのホストCPU側へ押し上げる」ことにある。 (riscv.org)
もっとも、本当の難所はISAそのものより“サーバープラットフォームの完成度”だ。RVA23プロファイルは2024年10月に ratify され、ベクタ拡張やハイパーバイザ拡張を必須にした。さらにRISC-V Server SoC Specificationは、タイマ、割り込み、PCIeルートコンプレックス、IOMMU、RAS、管理機能などを標準化し、OSやハイパーバイザが単一バイナリで動く前提を整えようとしている。Canonicalは2025年にUbuntuの重心をRVA23へ移し、Red Hatも2025年5月にSiFive HiFive Premier P550向けRHEL 10開発者プレビューを公開した。CUDA移植が「やる気」だけでは進まず、標準化済みのサーバー土台を必要としている理由はここにある。 (riscv.org)
SiFiveの手元にある技術カードも、以前よりはるかにデータセンター寄りだ。2024年8月に発表したP870-Dは、並列性の高いインフラ用途向けのRISC-Vデータセンタープロセッサで、AMBA CHI対応により最大256コアまで拡張でき、CXLやCHI C2Cを使ったコヒーレントな高コア数SoC/チップレット構成を想定する。製品ページでは64bit・6-wide・アウトオブオーダー、>2 SPECint2017/GHz、分散IOMMUやRAS、仮想化機能などを掲げる。さらにSiFiveは2025年に第2世代Intelligenceファミリを投入し、スカラ・ベクタ・マトリクス計算を広げてきた。2026年4月の同社ブログでは、P870-Dが顧客シリコン上で稼働中で、Arm Neoverse N2級との競争を狙うと説明している。もちろんこれは会社側の自己評価だが、少なくともロードマップが「組み込みRISC-V」から「AIデータセンター級RISC-V」へ明確に移ったことは確かだ。 (sifive.com)
では、今回の調達で何が変わるのか。短期的には、x86やArmの既存勢力がすぐ崩れるわけではない。CUDAのRISC-V対応には時期未定という留保があり、サーバークラス実機、検証済みOS、管理機能、顧客案件の量産実績もこれから積み上げる必要がある。だが中長期では、NVIDIAのGPU基盤とNVLinkに接続でき、しかもISAは開いていて、CPU側は顧客ごとに深くカスタマイズできる――そんな設計自由度は、AIデータセンターの差別化競争と非常に相性がよい。今回の4億ドルは、RISC-Vが“エッジで有望”という段階から、“AIデータセンターのホストCPU候補”へ進むための資金であり、その意味でSiFiveはRISC-Vの次の戦場をかなり明確に示したと言える。 (sifive.com)
主な出典: SiFiveの資金調達発表、SiFiveとNVIDIAのNVLink Fusion提携発表、RISC-V InternationalのRVA23およびCUDA対応関連記事、RISC-V Server SoC Specification、Red HatとCanonicalのRISC-V関連公式発表。 (sifive.com)